第三章

心の借金が消えた日

大きくつまずいた平成の時代は終わり、新しい時代も既に5年が経過しようとしていた。債務が大きく苦しい時代を応援してくださったSさんが亡くなった。相続税の申告を相続人から依頼を受けたので、お悔みと感謝の気持ちを胸に取り掛かった。相続人が12名もいる複雑な案件だったが、在りし日の姿を浮かべ何度も感謝の気持ちを嚙みしめた。土地を相続したい方がいる一方で、現金が良いと希望する方もいたので、総合的に判断して代償分割と換価分割とを合わせた相続をすることにした。そこで、すべての不動産の調査をしながら解決する策を練った。平行して相続税申告の準備もしながら相続人全員が円満に相続できるよう、細心の注意を払いながら、期限内に希望額で一部を売却し相続人へ遺産分割を行なった。予想以上の遺産額を各人が相続し、相続人はSさんの仏壇に感謝の手を合わせたと話をうかがった。疎遠だった親族が改めて温かい気持ちで繋がって私も感謝の恩返しが少しは出来たようで嬉しさが込み上げた。

税理士開業して40年余り、お世話になった方の相続でお手伝いすることも少なからずあるものだ。よく高齢のお客様から「山内さん、僕の相続は頼むよ!あなたが先だと困るよ!(笑)」と言われるがごもっとも。心して心身健康に留意して毎日を過ごしている。そんなある日、債権者の一人であるHさんから数年ぶりにお電話を頂いた。Hさんへ最後の返済を終えたので、お礼状を送ったばかりだった。Hさんから「お礼状届きましたよ。長い間お疲れ様。今度は私の相続をお願いね。」優しいHさんの声に熱いものがグッと胸に込み上げる。私を支えてくださったSさんやHさん、多くの方に本当に感謝の念が堪えない。

まだまだ私が仕事で恩返しをすることが出来る!更なる業務拡大のために足かせになっていたのは、バブル時代に連帯保証人になってしまい、その保証債務が保証協会に残っていたことだった。自らの債務も完済していない中で、決着つけられずに毎月1万円から数万円程度を弁済していた。利息にも満たない額を交渉しながら20年以上弁済し続けてきた。そんな中、事業資金の借り入れを保証協会が保証してくれた。「おっ!これは私を信用してくれた証だ!」吉報に狂喜乱舞した。これまで応援してくれた方々や社員、家族のためにも、良い仕事をこれまで通り信じてやっていこう。

連帯保証債務が無くなった日、私の心の借金も消えた。




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