第四章

いつも心地よく

思い出の味はトンカツ
コロナが少し落ち着いた頃、東京のとあるトンカツ屋に行った。この店は青春の思い出の味だ。昼は税理士事務所、夜は試験勉強で貧乏暮らし、月に一度の贅沢はこの店のトンカツだった。この店はいつ訪れても行列が出来ていて、食べる客の背後に待っている客が並ぶ。カウンターと厨房は木目が美しく手入れされ、汚れひとつない。トンカツを揚げる職人たちの動きを見ているだけで、仕事に誇りを持っていると感じ見惚れるほどだった。 けれど数年ぶりの店は何故か違和感を覚えた。背中を丸め一心不乱にトンカツを揚げる大将の姿は厨房になく、何だか寂しい。時間経過と共に少しずつ何かが変わっていくのだろうか・・・

とんかつ屋のイラスト真夜中の珍事!?
北谷事務所を開設して10年が経とうとしている。日常に忙殺されお客様の目線で私は事務所を見ているだろうか?社員は気持ちよく過ごせているだろうか?そんな想いで北谷事務所を訪れた。丁度、お客様が社員と面談している最中だった。もう少し面談スペースを広げられたらいいな。限られた事務所スペースを業務する場所、面談する場所、休憩する場所と考えて配置したつもりだったが、今一度智恵を絞り出す。思い立ったら吉日!!すぐに行動に移すのが私の悪いクセ!(笑)
キャビネットを移動しパーテーションも移動し、社員総出で配置変えを試みる。一応何とか以前よりも面談スペースは広くなったものの、その分社員スペースにしわ寄せが・・・。 社員の苦笑いの顔を横目に帰途に着く。「う~ん。何か良い方法があるはずだ。あの部品を使ってこれを繋げば・・・」帰途に着いても頭の中は3D並みに思考し閃いた策をやらずにはいられない。

週末夜な夜な北谷事務所でパーテーションを解体したり組み立てたりしながら、社員の利便も良く、面談スペースも広くなることが出来た。月曜日に社員が出社した時の驚き喜ぶ顔が楽しみだ。

翌月曜日、朝から北谷事務所は騒がしい。朝事務所に来てみたら面談スペースも広がり、社員の通路も壁で塞がれていたのに、どれも解決していたからだ。社員は目を丸くして「一体これは・・・。やっぱり社長では」その通り!私の仕業です。面談室に掛ける絵を選びながら、マンネリで気づかなったことを反省しつつ、お客様を心地よく迎えられることに、小躍りしたいほど嬉しかった。

お客様の目線の先に
那覇事務所も北谷事務所も顧問先が来社されて経営の相談を定期的に行う。定例の試算表の話も重要だが、私の役目は少し異なる。試算表から続く少し先を見ながら一緒に考え、時にはヒントになるような話題を提供する。もちろんその為の情報収集は欠かさない。
来社型の顧問先の方の中には、経営者になったばかりで不安な方も、毎月会って実績を確認し話し合うと実績も着実に伸び成果を感じることもある。逆に苦境に立たされている経営者には一緒になってこの厳しい局面をどうするか知恵を絞る。私が歩んだ苦しい時代の経験が活きるときだ。「社長、この借金の額は可愛いものです。売り上げはあと一年間で10%上げるとしたら、何が出来そうですか?」質問しながら、社長の顔を見て検討をつけていく。

担当社員が用意した資料は先に目を通さずに、「まず社長に会ってから。社長の顔を見ると良い知恵も浮かぶというもの。」この言葉に担当社員は目を白黒させるが、試算表は過去の数字なのでこれからをどうするかを、社長と一緒に考えるのが私のスタンスだ。

今日の顧問先の社長はあと5年でリタイアしたいという方だった。将来性や事業継続の難儀さなど精神的な面もありそうだ。けれど色々な話をしているうちにすっかり元気になって「山内先生、あと15年しましょう」と言って帰っていった。案外、経営者は孤独で寂しいものだ。私の苦労話も世間話もしながら、叱咤激励すると気持ちも軽やかになるらしい。

社長を見送りながら、私もあと15年は頑張らないと・・・と思いました(笑)




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