第五章
拓
ゆるやかに
久しぶりの忘年会開催に向けて社内は賑わっている。いや、はしゃいでいるのは私だけのようだ。税理士事務所は12月から3月まで繁忙期なので、余興の賞品を見せびらかしても、社員にうすら笑いされる始末。ここでメゲていけない!だてに40年も開業してないぞ。毎年同じ業務と繁忙期を繰り返すこの時期を含め、社員が新鮮な気持ちで仕事が出来るように気分転換するのも大事だと思う。「どの部署も余興をやろうよ」大号令をかけ陣頭指揮をとる。まず私から宣言した。「私はピアノで加山雄三の「海・その愛」を弾いて歌います!ただし!たぶん来年かも?です!今年はオカリナで・・・ピアノ伴奏付」一同ガクッ(笑)。
社長賞の賞金を懐から奮発して出すことにした。忘年会が楽しみだ。こうして師走の街は少しずつせわしくなっていく。
もう10年位経つだろうか。沖縄コンベンションセンターで加山雄三コンサートを観た。ステージバックに「KOKI」と書いてあり、最初は「?」何か分からなかった。ステージが始まってそれが「古希」と判明した。若々しい躍動のステージを観て素直に驚き同時に古希というのは、まだまだやれるもんだと、しきりに感心した。一緒に行った顧問先の社長も「私もまだまだやれる!」と大層、ご機嫌だった。
来年は私の干支の辰年。「古希」である。東京で資格を目指していた頃は「沖縄で僕を必要としてくれる人のために頑張る!」若さゆえの自惚れた使命感で走りはじめ、大きな道もでこぼこ道も乗り越えてきた。時には迷路のように進む道がないことも。そんな時に実感したのが己の弱さだった。仕事で徹夜続きの最中、突然襲われた恐怖心。あの日の怖さを忘れることが出来ない。
「過信しては駄目だ。僕は弱い」
若い時、有名な落語家が私に言った言葉。「人生は死ぬまでの暇つぶし」眉間に皺寄せてがむしゃらになっては、周りが見えてないぞと、諭してくれたのだ。その時はふぅ~んと思ったが、意外にも私はその言葉が心に染みている。プレッシャーがかかるときや五里霧中のときは、まず寝る!明日の資金繰りが大変な時もまず寝た!(笑)早起きして内観しながら、じっくり考えると案外、解決策が見えてきたものだ。そして仕事がうまくいったら無邪気に喜んだ。
今年、ようやく改訂版の本を出版できた。その喜びも束の間に新たな課題にぶち当たってしまった。沖縄のスージ小(グワァ)と呼ばれる2項道路問題だ。
戦後の苦難の歴史は私が語るまでもないが、2項道路や貸宅地問題で悩んでいる人は実に多い。県立図書館はもとより国会図書館まで出向き、探した資料や書籍ではまだまだ解決の糸口すらない。税理士としてその相続税評価の在り方に疑問を呈しつつ、謙虚にその成り立ちと解決策を探ろうと思う。
いつか沖縄の人のためにと壮大な夢だったけれど、今は私の周りの人のために何が出来るかと絶えず問いながら「夢と勇気を道連れに」歩いていこう。最後のピースが埋まらないパズルのように、税理士人生は未完成のままでいい。
古希に乾杯!